弘前ねぷた

今日は8月1日。弘前ねぷたまつりの真っ最中です。

ねぶたというと有名なのは「青森ねぶた」。「弘前ねぷた」は見た目も運行の仕方もまったく異なるものであることを(「ねぶた」ではなく「ねぷた」と呼ぶことも)毎度説明しなくてはなりません。近年は五所川原の「立佞武多」も人気がありますが、実は県内40箇所以上の地域で独自のねぶたまつりが催されています。

私は弘前市出身なので、少しでも皆さんに「弘前ねぷた」を知っていただきたく、独自の見解ではありますがここに書き留めさせていただきます。


弘前ねぷたは8月1日~7日の1週間に渡り、大小約70台ものねぷたが城下町弘前を練り歩く勇壮華麗なまつりです。

多くの方がご存じの「青森ねぶた」は「凱旋ねぶた」と呼ばれ、豪壮な人形型のねぶたの周りを、ハネト(跳人)と呼ばれる祭り人が「ラッセラー」という掛け声とともに歓喜しながら飛び跳ねて踊ります。

対する「弘前ねぷた」は「出陣ねぷた」と呼ばれ、形は扇型で、表と裏にそれぞれ武者絵と美人画が描かれています。祭り人は踊りません。ねぷた囃子を奏でながら「ヤーヤドー」という掛け声とともに前進します。まるで武士が隊列を組み、合戦に赴くかのような厳かさがあります。


私が弘前ねぷたを誇らしく思うのは、市民の心意気がまつりを継承させていることにあります。企業の出すものは少なく、基本的に町内会でねぷたを作ります。子供たちも大人と密に関わりながらまつりが受け継がれているのは城下町ならでは。

各町内会にはお抱えのねぷた絵師がいて、若い絵師も育っています。この町、この絵師は、今年どんなねぷた絵を見せてくれるのかと、皆楽しみにしています。しかし儚いことに、動く芸術作品は魅せ、競い合い、僅か1週間で燃え尽きるのです。7日目(なぬかび)に燃やしてしまうからです。


弘前ねぷたの命であるねぷた絵は、表の「鏡絵」、裏の「見送り絵」から成り、表も裏も恐ろしい絵が多いです。

※インスタに動画があります。このHPには直接動画を貼り付けることができないので(YouTubeやればいいんですけどね)インスタの投稿でご覧ください。3年前に撮ったこの動画は恐ろしくないので説得力に欠けるのですが美しいです。


鏡絵は三国志や水滸伝などの勇壮な武者絵が描かれます。主に流血の戦のシーンで、えぐられた目が飛び出ていたり、真っ青な生首がポーンと飛んでいたりします。

見送り絵は妖艶で幽玄な女性が描かれます。美女かと思いきや幽霊であったり、自ら刀で切り落とした男の生首を持って立つ女傑であったりします。私は、ねぷたの個性が光る見送り絵を観るのが特に好きです。


これらは武士がいた街に好まれた題材なのでしょうか。でもただ恐ろしいのではなく、それを上回る絵の美しさがあるのです。内側から照らし出される光と色の効果も相まって生き生きとしています。恐ろしいものを目に焼き付ける、おどろおどろしさのなかにも美を感じる、弘前で生まれ育った人は、そういった感覚をDNAのように植え付けられているような気がします。それが良いことかどうかはさておき、残酷さは弘前ねぷたになくてはならない要素です。コンプライアンスは無視であって欲しい。弘前ねぷたから残酷さがなくなったら終わりです。


コロナ禍が過ぎ、3年ぶりに催された2022年のねぷた(300年という節目を迎えた年)を久しぶりに観たとき、なんだかまだ津軽藩にいるような気さえしました。子供の頃からある意味洗脳されていて、ねぷた囃子が聞こえると戻らずにはいられないような感覚。この時代に日の本で戦が始まったら勝ち進みそうなパワーを持つ土地。完全に時代錯誤ではありますが、先祖代々の魂が宿る強いエネルギーを持つまつりだとあらためて感じました。


あくまで私が故郷に感じることですが、この街は(都会の人が田舎にイメージする)のんびりとした温かさというよりも、凛とした厳しさのある街だと思います。各々のわきまえや秩序、礼儀、美徳、誇り、覚悟……などといったものが、脈々と根底に流れているような気がするのです。それは決して窮屈なことと私は思いません。心に留めておきたい大事な精神と考えます。 弘前ねぷたには、これらの精神が凝縮されていると思うのは私だけでしょうか。


先頭を切る大太鼓が胸を打ち、ねぷた囃子と「ヤーヤドー」という掛け声とともに、闇夜に浮かぶねぷたがゆっくりと目の前を通り過ぎるとき、私は涙をこらえるのに必死です。この街に生き、これほどの素晴らしいまつりを守り続けている弘前市民に敬服するばかりです。


弘前の夜を、赤く熱い一筋の動脈のように流れる何十台ものねぷたは、各々の町に別れて眠りに着きます。

「ねーぷたーの、もんどり(戻り)こー」

「ヤーレ、ヤーレ、ヤーレヤー」


公益社団法人 #弘前観光コンベンション協会

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