起業の動機

【しまってある作品がもったいない】

私自身二科会に所属しておりますが、二科会の作家は二科展終了後、出品した100号以上の大作の置き場に困っています。毎年のことなので自宅で保管することが困難となり、本当に大切な作品以外は上から描き潰したり(前の作品はなくなります)、諦めがつくものは捨てているという現状もあります。


二科展のような公募展にしても、個展やグループ展にしても、美術館やギャラリーに作品が展示されるのはせいぜい1~2週間程度のことで、知り合いや関係者、興味を持って来られた方、もしくは通りすがりの人しか観ることはありません。そして、作品は求められなければ作家の手元に残るだけです。


丹精込めて描いた作品が、展覧会終了後、誰の目にも触れられず自宅にしまっておくだけになるのは非常にもったいないことですし、作家にとっても本意ではないはずです。見知らぬ多くの方々に、作品やその作家に興味を持ってもらえるよう、公共性の高い場所に作品を長期間展示することはできないだろうかと常々考えておりました。


【営業魂に火が点く】

そのようなことを思案していた折、某企業の代表取締役の方とご縁があり、アートが必要とされている実例と、必要とされているが探し方がわからないという現状のお話を聞きました。それならば私の周りには素敵な作家さんが大勢いるし、見立てて差し上げることはいくらでもできると思いました。


「100 社営業すればどこか振り向いてくれる。最初は門前払いでも、パンフレットを残したり、記憶に残る営業をすれば後日思い出してもらえることもある。実際、うちに飛び込み営業をしていたある営業マンは信頼を獲得し、今では大きな取引先となっている。頑張ってみるといいよ。」という激励のお言葉にも触発され、私の営業魂に火が点きました。というのも、私は血筋的に営業が向いているのではないかと思うのです。


【私の祖父】

高度経済成長期、私の祖父は地方(弘前)にいながらにして、日本の某一流企業のトップを走っていた人でした。頑張り過ぎて55歳で亡くなっています。


私が1歳になる前に他界した祖父ですが、私の起業を天から後押ししてくれるに違いないと勝手な霊感を感じています。都合の良い思い込みですが、私にとってはそれが根拠であり、これまで言わなかった祖父の自慢が説得力を持つよう、そして祖父の名を汚さぬよう、覚悟を持って事業に取り組む所存です。


祖父が功績を残したその企業には財団法人があり、大規模な文化事業を行っています。絵里子画廊が力を蓄えて社会に貢献できるようになったとき、その財団法人にコンタクトを取ってみようという大志を私は抱いています。


【五十にして天命を知る】

そんな大それたことを考えなくても絵画制作に打ち込んで自分の絵を売ることを考えればよいのでは?と思われる方もいらっしゃるでしょう。


私は自分の意志と運の良さで絵画の世界に導かれたと思っていますが、画家として生きてきたとはとても言えません。むしろ会社勤めや、自分が大事にしているあれやこれやにかけた時間のほうが圧倒的に多く、それらの経験や人脈が財産となり、描くことも続けてこられたと思っています。いつのまにか画業が私のアイデンティティのようになってしまいましたが、自分の心と向き合いながら描いていると、約25年にわたる時の経過とともに何か違うと自覚するようになりました。


私は自分の周りにいる魅力的な画家と接していると、画家というのはこういう人たちなのだと尊い気持ちにさせられます。自分は足元にも及ばないと思うし、ましてや嫉妬心など微塵も湧きません。こういう人たちと出会えたことが嬉しく、私もいつか会心の作が描けるまで見習って頑張らねばと思えるのです。ですが、そう思っていること自体、画家としてのプライドが低く、画家をバックアップする画商としての気質のほうが勝っているような気がしてきたのです。


私は自分の立ち上げるビジネスで金儲けがしたいのではありません。描く側の気持ちをよく知っている私が、金銭や夢の搾取をするわけがないのです。私は作品を必要としているお客様や、絵は難しくてわからないと思っている方々に、作品だけではなく画家の人となりも含めた魅力を紹介したくなりました。誰もが知っている巨匠ではなく、同時代を生きる、私のすぐ近くにいる画家を。


これは私の人間好きで世話好きな性分によるものであり、恐らく祖父の血も影響しているのだと思います。若輩者ではありますが、それでもかれこれ25年は関わってきた絵画の世界でたくさんの関係者と出会い、この業界を見てきました。そして、描く側でもある私だからこそできる営業力を試してみたいと思うようになりました。


私の周りにいる作家さん方は、私の手など借りなくても活躍されている方々なので、私が助けるなどというおこがましいことを考えているのではありません。むしろご協力いただき助けてもらっています。私の目的は画廊・ギャラリーといった箱で作品を売ることではなく、街に展開するかたちで絵里子画廊を浸透させ、作家にとって躍動的な循環の仕組みを創ることです。